僕のための記録帳

はるなつあきふゆ

ラオス 埃と誇①

京都に大好きな定食屋がある。外装も内装も昭和的な心地よいもので、ドアを開ければ女将さんがいつも笑顔で迎えてくれる。彼女が一人で切り盛りしているこのお店では、学生は500円で美味しいご飯をお腹いっぱい食べることができる。お財布が寂しい時は、事情を話せば快くご馳走してくれる(何度お世話になったことか)。こんな太っ腹な人に出会えた僕は運が良い。あ、女将さんはスリムです。

だが、この店を愛する理由はそれだけじゃない。店内奥の古い中型テレビが、問答無用に最高なのだ。なんとそのテレビには、彼女の録画した名作映画や秀逸な特番が、4TBの容量(502時間分らしい)を満たす程に詰まっている。その作品の量と質は、彼女の深い教養を雄弁に語っている。

僕はこのお店で『ひまわり』『地下鉄のザジ』『砂の器』などの名作を鑑賞してきた。美味しいご飯と女将さんとの感想会付きで。サブスクリプションで漫然と映画を観るくらいなら、このお店へ行くべきだろう。(法的なことは無論、最高なのはテレビじゃなくてHDだとかいう指摘もお控えください。)

旅好きな女将さんの口癖が「かっこつけんで、よう調べなさい」だ。彼女にとって、旅とは訪れた土地の自然・文化・歴史を感じること。そして、感じるために、僕らはなるべく知る必要があるという。だって、知識とは感性の向く先を決める舵だから。もちろん舵を扱うことに終始してはならないが、感性が四方八方に拡散しても仕方がない。

例えば素敵なお店や美味しい地酒は、現地でセンスのよさそうな人に尋ねればよい。だが、旅をもっと深く感じたいならば、事前に自然・文化・歴史を調べれば調べるほどよい。行き当たりばったりの旅が流行る時代だが、最近の僕は彼女の言葉に従っている。そして、地図やブログや紀行本に囲まれていると、妄想の中で一足先に現地入りを果たす自分に気づく。それって素敵で、お得なことだ。

 

というわけで、逃避を決めて、6日後の飛行機に乗ることになった僕は、ラオスの情報を集めた。村上春樹の紀行本「ラオスにいったい何があるというんですか」を読破して、「ラオスを知るための60章」を読み漁り、「地球の歩き方2022年版」を眺め、ネットの波に乗りまくった。このように全集中を注ぐ先がある間、僕はすこぶる元気だ。

調査によると、どうやらラオスは農業と宗教とメコン川でできている。
全人口の7割が農民で、7割が仏教徒で、ななんと斜めに流れる川(声に出してください)。近年観光地としての人気が上がっているけれど、他国の名所に比べたらずっと人が少ない。国民はのんびりしていて、仏教寺院はどれも個性的で、自然は豊かで、そして、ご飯が安くて美味しいらしい。おいおい、素晴らしいな。期待に胸を膨らませて、永住の未来すら描きつつ、僕はラオスに入国した。